2005/5/27  #69

カンボジアン・サバイバル


その日、午前中の外回りを終え、集金してきた小切手を置きに会社に戻ると、社内が騒然としていました。
『襲撃』だの『監禁』だの、やたら物騒な単語を連発しながら大声で電話している支店長、会議室のテレビの前に集まる社員。
「???」と思ったらアナタ、カンボジアで人質監禁事件が起こってるじゃないですか、それも、うちのお客さんが泊まってるホテルのすぐ近くの学校で。

当初、ニュースで伝えられた犯人グループの要求金額は、1000ドル(約11万円)。
聞いた瞬間、支店長が叫びましたね。
「オレが払ったる、今すぐ撤収せぇぇっ!!!」
・・・・いやー、同感同感。

誰も亡くなったりしなければ、「大変だったねえ」で済んだんでしょうけど、残念なことに子供が一人なくなってしまって、本当にお気の毒なことです。
外国人の子供が通う学校だから、身代金とかとりやすいと思われたんでしょうね。

今回事件のあったシェムリアップは、これまで比較的治安のよい町とされてきましたが、首都プノンペンなどでは、お金持ちの子弟を狙った誘拐事件とか、けっこうあるそうです。
うちのカンボジア事務所社長のMさんも、子供を私立学校に通わせているのですが、「危ないから、早くアメリカか日本に留学させたい」と言ってるぐらいだし、お金持ちたちは、子供の通学にボディーガードをつけたりしているのだとか。
混乱と凄惨を極めたポルポト統治時代の爪あとがクッキリ残っているうちに、観光とか外国資本の流入などで一気に貧富の差が拡大してしまったことが、治安の安定化をよりいっそう困難にしいているのでしょうね。
そこに一枚かむ仕事をしているだけに、なんと言っていいか、本当に言葉を失ってしまいます。

それにしても、この騒ぎのあった翌日にカンボジア事務所からfaxされてきたツアー清算書をチェックしてたら、なんか請求金額が多い。
すぐMさんに電話して、「間違ってますけどー?」と文句言ったら、「ああ、そうですか。昨日バタバタしたから、間違っちゃったかなあ。ナゲさん鋭いねえ、ははは。」だって。Mさん、絶対ワザとやったでしょう、ドサクサに紛れようと思って・・・。
この抜け目のなさも、カンボジア式サバイバルって感じですが、抜け目ないと言いつつ抜けだらけなのが、これまたカンボジアの可愛いところ。良くも悪くも、目が離せません。

・・・あー、それにしても、あついですね。
梅雨入りしたものの、晴れ間に覗く太陽はすっかり夏の顔。シャワシャワと鳴く蝉の声も、もう少ししたら聞こえてくるのでしょう。
起きるのはだいたい5時半頃なのですが、最近では雨戸を開けると既に朝日が山を照らしていて、神々しいったらありません。
日本には古来から山岳信仰というのがありますが、朝日に輝く山に神を見てしまうって、すっごく納得。

山とか海とか太陽とか、それぞれ住む場所によって崇める対象は違うと思いますが、自然に対する畏敬の念を持ちえる環境に暮らすって、人間の根幹にかかわるとても大事なことのように思えます。
だって、山とか海の美しさって、意味もなく「あー、ありがてー」って感じるし、「ありがたい」っていう感情って、単純に「気持ちいい」んだもん。
大阪府内ですらこんなに有り難いのに、もっと自然の豊かなところに住んでたら、それは暮らす人の心にどんな作用を及ぼすんだろうって、よく考えます。
ネパールに行ったときもね、町の中をあるいてるときに、夕日で照らされて真っ赤に染まったヒマラヤの山々が見えて、そのあまりの壮麗さに、腰が抜けてしゃがみこみそうになったの。で、あんな光景を毎日見て育ったら、どんな人間が出来上がるんだろう、とか思って。

先日、松山に住む祖母が亡くなって、それはそれは山深い、道路地図にも等高線しか書かれていないような集落にある父の生家での葬儀に出たのですが、そこで会った遠縁の女性から聞いた話が印象的でした。
「ここは近所付き合いもすごく濃いからねー。持ち回りで集まって、拝んだりとかもよくしてるよー」
「拝む?集まって、仏壇拝んだりするんですか?」
「んー、ご先祖とか、まあ色んなものを・・・」

集まって、拝む!
キリストのミサとかイスラムの礼拝と同じようなものかもしれませんが、今の日本で、そういうのが生活に根付いてるのって、畏怖すべき自然に囲まれた暮らしがあってのことなんじゃないかなあ、と思いました。
こういうところで暮らしたら、まあ不便と感じることもあるかもしれないけど、今よりはもうちょっと、心も穏やかになるかもなあ・・・。

話は変わりますが、先月来なぜか奄美大島に取りつかれたようになり、いつ行こう、どうやったら安く行けるだろうと、もうそんなことばっかり考えながら日々生きています。
このハマり具合、もはや宇宙からの指令並み、個人の意思を超えたグレートスピリットの意思をハッキリと・・・・おいおい。

たまたま、奄美の写真家・別府亮さんという方のサイトを見つけ、毎日写真が更新されていくので、それをチェックしていから仕事に取り掛かるのが、最近の日課となっています。
写真に添えられる文章がまた、たまらなくいーんだな、これが。
歪みのない、まっすぐな視線を思わせる写真と、奄美への愛がこもった温かみのある文章。
見ているだけで、ちょっと浄化されるような気分になります。

あー、早く行かなくっちゃ。