2004/8/9  #55


その男、M


ご存知の方も多いと思いますが、漫画家の西原理恵子さんの元ダンナさんで、カメラマンの鴨志田さんという人がいます。
先日イラクで亡くなった橋田さんの下であちこちの戦場を取材した彼の近著には、橋田さんの著書には書かれていないウラ話的なエピソードも満載。両方を併せて読むと、軽く85へぇは超えていきそうな感じなのですが、ここで私は、さらにウラ話のウラ話を持つ男を見付けてしまいました。

その男とは、うちのカンボジア事務所社長・Mさん。
鴨志田さんの本の中では「ムラタさん」という仮名になっていて、まあ実際も似たような名前なのですが(もしかしたら、鴨ちゃんは本当に「ムラタさん」と思い込んでいるのかもしれない)、本屋に大量に出回っている本の中に、自分のよく知っている人のことが書かれているというのは、とても奇妙な気分になります。
世の中のあれこれというのは、ほんとに繋がっているんだな、と思ってしまう。

・・・ともあれ、橋田さんの有名なエピソードとして、カンボジア内戦時の取材中に、ポルポト軍兵士に捕まったというのがあるのですが、橋田さんの著書には、なぜこの時、案内役となるべき地元の人間を付けていなかったかというのは書かれていません。
で、鴨志田さんの本のほうに、「取材時にコーディネーターとして働いていたムラタさんのギャラは高すぎて、ずっと雇い続けることができなかった」という話が載っていたので、さっそく当のMさんに聞いてみたところ。
「そうそう、あれはねえ、日当500ドルって言ったら、ハシダさんは払えないって言ってねえ。私も、内戦でお客さん全然来ないし、社員の給料払わなきゃいけないから、それ以下ではできませんって断ったですよ。でも結局、ポルポト軍に捕まって、カメラまで取られちゃって、損したじゃないかなあ。ああいうところでは、ちゃんと地元の人間つけとかなきゃダメね。」とのこと。

・・・で、でもね、でもね、Mさん。
10年前のカンボジアで日当500ドルって、いくら危険な仕事とはいえ日当500ドルって、いくら社員の給料を賄うったって日当500ドルって、アナタ。
いや、命の重さに比べたら、500ドルなんて何ほどの額でもないけれど、うーん、難民から身ひとつで旅行会社を立ちあげて、今ではマフィアに身代金目的で子供を誘拐される心配までしなきゃならないほどの大金持ちになったMさんの、その軌跡の一端を垣間見たような気がしたのは、錯覚だったでしょうか。

鴨志田さんの本の中で語られる「ムラタさん」の経歴は、私が以前にMさんから聞いていたものとは若干違っていて、たぶん本に書いてあるほうが本当で、それは会社の人にはあまり知られたくないことなんだろうなと思って、「鴨志田、私のこと何て書いてる?」と聞くMさんには何も言いませんでした。
平和の中で暮らしてきた私がうかつに踏み込むには、なんだか溝が深すぎるような気がする、といったら、単なる逃げ口上になってしまうでしょうか。

うかつに踏み込めないといえば、アジアカップの、中国人による日本チームやサポーターへのブーイング騒ぎ。あの報道を見て、案の定、「あんな反日感情の強い国に行くのは怖い」といって、中国ツアーをキャンセルしたグループが出て。
キャンセルの理由を中国事務所のスタッフに伝えるとき、ちょっと迷ったけどそのまま言ってみたところ、「あれ、日本のメディアが騒ぎすぎ。実際はあんなことないよ。政治的目的でもあるんじゃない?」と返事が返ってきて、ちょっと言葉に詰まってしまいました。

いや、確かにああいうのって、ネタとして面白いと思うの、報道する側も、見る側も。怖いもの見たさっていうか、ショック受けつつも、微妙に民族としてのプライドを刺激されたりとかして。
その報道を鵜呑みにして、「中国コワイ」と言ってツアーキャンセルする日本人も日本人なら、「政治的目的で日本のメディアが騒いでいるだけ」と断じる中国人も、中国政府やメディアのプロパガンダを完全鵜呑みそのまんま、何の咀嚼もなさそうで、かなり危険な香りがしてきます。

なんかほんと、報道ってコワイっていうか、両刃の剣だなーと改めて思います。
見る側の資質も問われるのだろうけど、報道のされ方ひとつで、物事の印象がどのようにも変わってしまうのだもの。
以前はそういうの何も思わなかったけれど、報道ひとつで仕事に影響が出るような業界で働き始めたし、カンボジアのMさんを通じて、ジャーナリストと呼ばれる人々を、ほんの少しだけど身近に感じたりするようになってから、報道というものの持つ力の大きさ、大事さというのが、私にはちょっと怖くて。
以前、このコラムを読んでくださったテレビ局の方から、ナイト事情に関する情報を知りたいとメールを頂戴したことがあったのですが、なんだか怖くて、お断りしてしまいました。
今思えば、それって単なる「触らぬ神に祟りなし」的な感覚だったけど、そういうのを超えて発信していく勇気(っていうほど大袈裟なもんでもないか)、この先持てるようになるのかなあ・・・・。
とりあえず、このコラムで実名と顔写真でも公開して・・・いや、ムリムリ、会社に見つかったら怒られる(笑)。
でもせっかく、上山さんからこういう場を与えてもらっているのだから、なんか有効に活用してみたいですね。
なにかアイデアあったら、教えてください。では!