2003/2/2  #16

大使館燃えてますけど、どうしましょう?

その日、一通のFAXが、カンボジアから送られてきました。
「プノンペン大パニック情報」と、
極太マジックで1字あたり5センチ四方に大書きされたその書面は、
プノンペン事務所所長のカンボジア人・Mさんからのものでした。
ただでさえ日本語があまり達者とはいえないのに、やや取り乱しているのか、ますます意味不明な日本語が書き連ねられたそのFAXの概要は、タイの人気女優の発言に怒ったカンボジア市民が、首都プノンペンにあるタイ大使館やタイ資本の施設を焼き討ちしている、というものでした。

『タイの人気女優が「カンボジアのアンコールワットはもともとタイのもので、それをカンボジアは奪ったのだ」という趣旨の発言をした』という報道が、そもそものキッカケだったらしいのだけど、だからって焼き討ちするのはやめてくんないかな、もう。
理由がしょうもなさすぎて、社員一同、慌てるというよりも脱力してしまいました。がっくし。

もともと、このあたり一体の各国間の国民感情というのは非常に微妙で、何百年にわたる侵略・侵攻の歴史がある上に、第二次世界大戦に続くインドシナ戦争の影響も色 濃く残っていて、表面上は穏やかに見えても、何かあれば一触即発の危険をはらんだ地域なのです。
ベトナム人とカンボジア人は仲が悪く、インドシナ戦争当時、メコン川の上流(カンボジア)で殺された在カンボジアのベトナム人の遺体が、メコン川下流(ベトナム)の家族のもとまで流れ着いた、というのはよく聞く話だし、カンボジアとタイの国境に位置する大型遺跡・カオプラヴィハーンは、両国の所有権の問題から、現在外国人の立ち入りが禁止されていたりします。

だから、今回の暴動が起こったときも、「ああ、やっちゃったのね」というのがまず頭に浮かんだんですけど・・・
困るわー。困るのよねー。

旅行業っていうのは、つくづく平和あっての産業だなって、こういうことが起こるたびに実感してしまいます。
結局、日本人の怪我人もなく、市内もすぐ平穏に戻りましたけど、この事件は日本でも報道されたため、やっぱり出ました、何件かキャンセルが。
プノンペンに行くツアーじゃないんだけどね。怖いんですって。

もう少ししたら、アメリカがイラク攻撃を始めるかもしれませんよね。
そうなれば中東上空を飛ばねばならないヨーロッパ旅行や、同盟各国への旅行はキャンセルが多く出るだろうし、これからは中国や東南アジアを注力して売ったほうがいいな、というのが、最近の旅行業界の雰囲気なんですけど・・・どうなんでしょうね。
そりゃ、アジアが売れてくれればありがたいですけど、世界中が平和であるに越したことないしな。
一昨年みたいに、キャンセル続出したり、いろんな旅行会社が潰れていくのを見るのは、もうたくさん。ひいきにしていただいてた旅行社の社員さんも、何人かリストラされましたもん。

それにしても、ブッシュ大統領め。この人がいなければ私たち旅行業界人も、もう少し枕を高くして眠れるかもしれない。
もし戦争なんか起こしてみろ、イラク人殺すだけじゃなくて、日本に限らず、各国の旅行業界の人間まで、社会的・経済的に殺すことになりかねないんだからね。

ほんと、アメリカの正義、アラブの大義って、一体なんなんだろう。
正義ってさ、立場の表明でしかないじゃないですか。何が正しいかなんて、状況によって違うんだから。
正義は危ないと、私は思います。正義と名の付いた途端、それ以外のすべてが悪にされてしまうんだもの。たとえそれが、立場の違う人から見れば善であっても。
アンタたちのつまんない正義ごっこだか勢力争いだかに付き合わされて、人が死んだり生活脅かされたりするのなんか絶対イヤッ、と思うのでした。がるる。