第5回 その5


ローリングストーンズの対訳を読んだ時に、
僕ならもっと違う解釈ができると思った。



□ラムネ庵
翻訳学校を卒業して、
いざ翻訳の仕事を始めようというとこなんですが、
一人でやっていくってことは、コネクションとかもないわけだし
大変だったんじゃないですか?
どうやって仕事をとっていったんですか?

□中島さん
翻訳会社っていうものがあって、
まあ言ってみれば翻訳のブローカーみたいなものなんですけど。
その会社の試験を受けて登録できたら
そこが請け負った仕事がまわってきます。

□ラムネ庵
そういう会社のテストをいくつか受けて登録したんですね?

□中島さん
そうですね。
化学関係の仕事っていうのはそういう翻訳会社から連絡があって、
こういう仕事をいついつまでにやってくださいって
感じでくるようになってて。

□ラムネ庵
音楽関係の仕事はどうやって見つけたんですか?

□中島さん
今は、CDのライナーノーツ(注:洋楽のCDなんかについている解説のこと)
とか、歌詞の対訳をやってるんですけど、
そういうのはレコード会社との直接契約です。

□ラムネ庵
えー、すごい。それは自分で売り込んでいったんですか?

□中島さん
もうプッシュプッシュ(笑)

□ラムネ庵
その時って自分を売り込むためのツールって何か作ったんですか?

□中島さん
原文と自分の訳した文はもちろんだけど、
なるべく比較になるものを用意するようにしてますね。
例えば、ローリングストーンズのアルバムが出たばっかりの時、
対訳を読んで、これはあかんと思った。僕の解釈と違ってたから。
それは結構名前が知れた人が訳してたんですけど、
僕のほうがもっといい訳ができる自信があったから、
自分ならこう訳しますよっていうサンプルをつけて
レコード会社に売り込んだんです(笑)

□ラムネ庵
なるほど。それなら売り込む時にすごく説得力がありますよね。
売り込みをした時って何社くらいまわったんですか?

□中島さん
東京行くだけでも大変ですからね。
最初は6、7社はまわったんじゃないかな。
あとは不思議なもんで人が紹介してくれるんですよ。
やりたいっていう気持ちが外に出てたのかな。
ちゃんと人が覚えててくれるんですね。
そのうち、何社かだめになって、何社かは続いてる感じです。

□ラムネ庵
だめになるっていうことは、他の翻訳家に…。

□中島さん
最初は仕事をくれてたのに来なくなったってことは、
誰かに仕事とられてるんでしょうね。
僕がやった翻訳に問題があったのかもしれないし。反省です。

それと今はレコード会社も儲からないから
余計なお金をかけないために
対訳をつけなくなったりしてるとこもあるんです。

□ラムネ庵
僕もCDとかレコードを買うと、
ライナーノーツや対訳を読むのを楽しみにしてるんですけど、
昔のレコードの対訳とかって
僕でもこれおかしいやろっていう訳がときどきあったりします。
笑ってしまうくらいのものもありますよね。

□中島さん
でもね、歌詞の対訳とかって、急ぎの場合は3日間とか、
長くても一、二週間くらいだったりするんですよ。
その間に全然知らないミュージシャンの情報を仕入れて音も聴いて、
その歌詞を理解しないといけない。

一番好きなNRBQでも歌詞の世界はものすごい訳しにくいのに、
ましてや全然知らんミュージシャンでそれをしろって言われたって
さっきの化学の用語の話しじゃないけれど難しいですよ。
レコード会社は歌詞の対訳やライナーノーツに関しては
翻訳者に任せっきりで、チェック機構もあまりなかったりするから、
対訳の仕事っていうのは、
翻訳のなかでも一番難しい仕事の部類に入ると思ってます。

□ラムネ庵
あーそうか、ただ単に歌詞を訳すってだけじゃなくて、
ちゃんと歌詞の世界を理解して、
ミュージシャンの気持ちをできるだけ正確に伝えていかないと
いけないんですね。

□中島さん
特に好きなミュージシャンでそれができなかった時は
ものすごく罪の意識を感じます。
対訳じゃないけど、キンクスのライナーノーツを訳した時に、
英語が難しすぎて、しどろもどろな文章になってしまいました。
まわりにも好きな人がたくさんいるし、
ものすごい胸が痛んだ。落ち込みましたね。

□ラムネ庵
難しい英語ってなんなんでしょう。ニュアンスが難しいとか?

□中島さん
アカデミックな英語。
英語でもやさしい英語を使おうっていう運動が今はあるんですけど、
音楽業界って権威的なところがあって、
わざとアカデミックな英語を使おうとする。
日本の音楽業界でも難しい言葉を使おうとする人っているでしょ?
いかにも音楽を研究してますよっていうような。

例えば、「成功する」とか「うまくいく」っていうとよくわかるけど、
「成就する」とか漢字をたくさん使ったりすると
ややっこしくなってくる。
そういう言葉をたくさん使って
アカデミックな雰囲気を出そうとする
文章って英語にもたくさんあるんです。

□ラムネ庵
うー、なるほど。
偉そうな文章って英語にもちゃんとあるのか…。

□中島さん
雑誌とかを注意して見てみてほしいんですが、
難しい日本語で訳されているものは、もとの英文が
アカデミックな言葉だからそうなってることが多いんです。
今は一方ですごくやさしい言葉で
翻訳をしようとしている人たちもいます。

でも逆にそういうアカデミックな英語を
あんまりやわらかい言葉で表現するべき
じゃないとも思うんです。
そういうアカデミックな文で書かれてるっていうことは事実だから。
それを曲げることになってしまうし。
難しい問題ですね。