第5回 その4


文章っていうのは単に記号だと思う。
書いた人と読んだ人の間の知識に
共通項があった時だけ意味が通じる。
だからその仲介役の翻訳者は、
自分が翻訳する分野のことを知らなければ話にならない。




□中島さん
翻訳の仕事をするためには、
語学力とか、訳し方のテクニックみたいなものは
もちろん必要だけど、
実際に仕事をするためには、
また違う努力も必要になってくるんですよ。

□ラムネ庵
えー、それだけじゃだめなんですか?(笑)
どんなことだろう??

□中島さん
それは、自分が翻訳する分野を知らなければいけないということ。
これはすごく大切なことだと思ってます。
文章っていうのは単に記号だと思うんです。
だから書いた人と読んだ人の間の
知識に共通項があったときだけ意味が通じる。
あるいはひっかかる。

例えば、化学の文章を化学を全然知らない人が読んでも
わからないでしょ? それは英語でも日本語でも一緒なんです。
「共重合体」っていう化学用語があるだけど、
最初に言葉を聞いたときに、それが何なのかぴんとこなかったら
話ができないわけです。
書かれていることをまず先に理解しないと
翻訳者がそれを知らずに単に言葉を置き換えたって、
前後の文脈と結びつかなくなって
日本語として通じないものになってしまう。

□ラムネ庵
単純に変換しただけになっちゃいますよね。

□中島さん
そうそう。だから翻訳ってものは、
自動変換できへんものだと思うんです。

□ラムネ庵
今パソコンで自動変換のソフトとかありますけど、
すごくおかしな日本語になりますよね(笑)

□中島さん
ひどいでしょ? だから人間の脳みそっていうのはすごい!
NRBQ(注:今回大阪に呼ぶことになったアメリカのバンド)
にしても人によっていろんな捉え方があるしね。

□ラムネ庵
人によって違いますよね。
僕だったらメロディーがきれいな曲が好きなんですけど、
他の人はもっとロックな曲が好きなのかもしれないし。

□中島さん
そういう風に人によって捉え方って違うから、
文章も同じで、できる限り過不足ない言葉を選ぶ必要があります。
そうなると内容を理解してないとできない。
だから、化学の分野の翻訳をしようと思ったら、
まず化学の勉強を先にしなければいけないんですよ。

□ラムネ庵
中島さんは、化学の分野の翻訳を得意にしてるんですか?

□中島さん
そういう意味では、多少知ってる分野があるっていうのは
翻訳の仕事をとっていく上で、自分を売り込む武器になりますね。
僕にとっては、それは化学と音楽になるかな。
化学は、自分が6年間会社員としてずっと関わってきた分野だし、
訳しててイメージがつかめるから。

□ラムネ庵
社会人として最初に会社に入った時は、
そんなこと考えていたわけではなかったでしょうけど、
今の翻訳の仕事にちゃんとつながっているんですね。

□中島さん
そうですね。
化学っていってもほんとに広いけど、
そのなかで僕が専門にしてるのはポリマーの分野だけ。
この世界ってものすごく移り変わりが速いんですよ。
だから普段からインターネットで化学関係の
資料を読んだり、新聞を読んだりして、
今ポリマーの分野で何が起こっているか
っていうのを知っておかないと
新しい言葉がどんどんでてくるから追いつかなくなります。
そういうのって英語の勉強っていうのとはまた別ですね。
逆にそれを知っていたら、英語が必ずしもぺらぺらじゃなくても
翻訳はできるかもしれないですね。

□ラムネ庵
新しい言葉っていったら化学だけじゃなくて、英語全般に関しても
出てくるんじゃないですか?

□中島さん
そうそう。
インターネットで外人同士がやりとりしているのを見てたら、
「I」っていう主語は当たり前だから抜いてたりする。
英語もほんとにざっくばらんですね。
そのへんの自由さというのはメールが普及してから加速してる気がします。
そういうのもずっと意識して見ておかなかったらついていけないですね。

□ラムネ庵
英語も日本語と同じでどんどん変わっていてるんですね。
流行言葉とかもあるんでしょうね。

□中島さん
アメリカのNRBQのメーリングリストに入ってるんですけど、
毎日見てると新しい発見がよくありますね。
これはこういう意味でこういう使い方をしてるんだなっていう、
当たり前のことを知らなかったとか。
それも勉強ですね。