第3回 その2


昨年は、焼いては、全滅の繰り返しで、
結局5回分、すべて全滅しました。

□うえやま
これまで焼いた数と言えばどれくらいありますか?

□喜多さん
数えたことはないです。

□うえやま
千個は超えているのでしょうか。

□喜多さん
千は超えてるでしょ。

□うえやま
1度に焼く数といえばどれくらいですか?

□喜多さん
大きさにもよりますが、
目安としては50〜60個というところです。
だいたい、2ヶ月に1回ほど焼くので、
それで計算すると、まぁだいたいの数字は
わかります。

□うえやま
相当な数を作られているんですね。
そのなかで、作品になるのは、
ごく一部なんですか。

□喜多さん
作品として展示することができるのは、
かなり少ないといえます。
ただ、思い通りのものができたものは
残念ながら、まだ一つもありません。
自分のカラーは出ていない。
まだまだこれからです。

□うえやま
昨年、陶芸ジャパンに出展されていて、
お伺いした際に、今年は5回焼いて、
5回とも全滅したとおっしゃってましたが。

□喜多さん
昨年は、焼き方について、
いろいろと実験を行っていたんです。
どうやっても、うまくいかない。
焼いては、全滅の繰り返しで、
結局5回分、すべて全滅しました。

□うえやま
2ヶ月に1度、窯で焼くとすると、
ほぼ1年分の作品がすべて失敗に終わって
しまったことになりますね。

□喜多さん
そうです。
でも、ようやく成功したものができました。
何が悪かったか、どうすべきなのかが
1年かけて、はっきりとわかりました。
この手法については、もう失敗しない。
今回は、1年かかりましたが、
手間暇かけてじっくりと向き合うことが
こういった芸の道では避けては通れない。

□うえやま
時代のスピードが加速度を増していくなかで、
そうやってひとつのことにじっくりと
取り組んでおられる姿勢というのは、
すごく貴重なものだと思います。
次の陶芸ジャパンでは、
その失敗から得た教訓を生かして
新しいものを作られるわけですか?

□喜多さん
いや、昨年の実験はあくまで実験であって、
自分のカラーというのは
また別のものですから。
今度の展示会に出展するのは、
もっと違う世界。
あっと驚くようなものを考えています。

□うえやま
それは形状ですか?
釉薬(ゆうやく=うわぐすり)の調合とか、焼き方ですか?

□喜多さん
いや、すべて含めたところで、
新しいものを作ります。
今回は、形も自分のカラーをさらに意識したものに
していくつもりです。

もの作り全般に言えることですが、
個人的には、基礎ができていないのに、
最初から崩した表現を用いることを好みません。
絵で言えば、写実ができるようになって
初めて抽象画が描けるわけで、
その基になる力もなく、
初めから崩して表現すると、
行き届かないところが必ず出てくる。
そうなってしまうと、元も子もない。

自分としては、基礎となる土台が出来上がりつつあるので、
今年からようやく少し崩した表現を試していこうかと
考えています。

□うえやま
作品を見せていただいてて、
ここ1、2年は急須や酒器が多かったように思うのですが、
今年も急須という路線でいかれるんですか?

□喜多さん
酒器はやるけど、品物として急須をやるつもりはないです。

□うえやま
それは、なぜですか

□喜多さん
常滑(とこなめ:愛知県知多半島にある焼物の産地)
には絶対にかなわない、急須においては。
あそこには、急須だけを何代にも渡って
作り続けている専門の人たちがいるんです。
そんな人たちに、勝てるはすがない。(笑)
だから、急須はもうやりません。

これまでやってきたのは、
急須には、焼物に必要な技術が
すべて入っているからなんです。
焼物は、最初、湯飲み茶碗からはじまって、
最終的に急須ができるようになれば、
一通りのことができるようになったと言えるんです。
そういう意味でも、今年からは、
少し崩した表現手法に取り組んでみようと
考えています。