二年ほど前に奇妙な噂を聞いた。
 携帯メールだけで相談を受けつける霊能力者がいるという。
 ものすごい千里眼をもっていて、何でも見通す。まだ年若い女性で、渋谷駅周辺で仕事をしている。その女性は待ちあわせの場所と時間しか指定してこない。いっさい相談者に対して質問しない。それなのに指定された待ち合わせ場所(多くの場合は渋谷109の前)の雑踏に立っていると、どこからともなく現われ声をかけてくる。
「え? どうして私だってわかったのですか?」
 と、驚くと「そりゃあわかりますよ」とにっこり笑うのだそうだ。
 その話を聞いたたとん、私は連呼していた。
「会いたい、会いたい、私も会いたいよ〜!」
 それでとうとう友人の友人から携帯メールのアドレスを聞きだして、自分でその霊能力者にコンタクトをとった。なんと三ヶ月先まで予定が埋まっていた。いやはやすごい人気だ。なんのなんの、私は三ヶ月待った。そしてついに、かの霊能力者と109の前で待ちあわせと相成った。
 ドキドキしながら109の前に立っていると、横断歩道の向こうから、まっしぐら
に私に向かって歩いてくる背の低い女性がいた。その人は、私の前に立ち「田口さんですね」と言った。
 田口さんですか? ではなく、ですね、と言ったのだ。
「どうして私だってわかったのですか?」
 辺りには人待ち顔の女性が二十人はいた。彼女は笑った。
「そりゃあわかりますよ」
 で、あなたは特別な職業で人に何かを伝える仕事をしていますね、とか、家は海の近くですね、とか、いろいろ私のことを言い当てる。本当に千里眼である。私に関することがいくらでも頭の中に映像として浮かんでくるらしい。
「……ところで、あなたの家に、古い梅の樹がありますでしょ?」
「あ、はい。ありますあります」
「その樹、大切になさったらいいですよ。その樹は守り神ですから」
 彼女は力強く断言した。
「へー、そうなのか、あの梅が……」
 確かに古い梅の樹が庭にある。私は毎日、その梅の樹を眺めながら仕事をしている。春先にはたくさんのメジロがやってきて梅の樹で遊んでいる。
 千里眼の霊能力者から「守り神」とまで言われた梅の樹。
 その梅の様子が変なことに去年、気がついた。幹がボロボロに崩れてきて、そこに虫がついている。触ってみたら、幹はスカスカでずいぶんと傷んでいるように見えた。
 私の家のあたりは強い海風が吹くため、それで樹が折れることもある。
 大事にしろと言われた梅の樹なのだから、枯れたり折れたりさせてはならぬ……と、私は近所の植木の手入れをしているおじいさんに相談してみた。すると、そのおじいさんは、
「うーん、こりゃあダメだね」
 と、一言。
「ダメ?」
「いや、こういうのはもうどうしようもないっていうか。でもほっといても梅は強い
から大丈夫。皮一枚でも生きてるからさ」
 そんな乱暴な〜。
 なんか私は腹が立ってきた。どうにか治療のしようがあるだろうと思った。そこで、植木屋さんではなく、樹医さんを探すことにした。以前にテレビ番組で樹医という、樹のお医者さんを紹介していたことを思い出したのだ。
 まずは、近所の神奈川県で樹医さんを探そうとしたのだけれど、どうも見つからない。樹木医ならいるのだけれど、樹医さんがいない。
 困ったなあ、困ったなあと、インターネットをうろうろしているうちに、偶然にも検索エンジンに聞き耳サイトの盛田直樹さんのインタビューがひっかかってきた。
 読んでみると、盛田さんという方、とてもおもしろそうだ。ネイティブアメリカンのスピリットに影響を受けたところなど、私と話も合いそう。それに、なんかすごくハンサムでいい男だし……、という不埒な心を持ちつつ、すぐさまメールを送ってみた。
 そしたら、すぐにお返事が来た。とってもていねいなお返事で、盛田さんの人柄がしのばれた。この人なら、うちの守り神の梅をまかせられる。そう直感した。
 そんなわけで、ついに今月(二月)、盛田さんに我が家に来ていただいた。
 幹を補強していただき、土壌改良にも取りかかった。さあ、これで一安心。他の庭木も見ていただき、なんだか庭の木々がとてもうれしそうに見えて、毎日、眺めるのが楽しい。
 樹医さんが来るとあって、我が家の夫や父も大張りきりだった。
 この機会に指導を受けながら庭木の手入れをしてしまおう……ということになって、二日がかりで松の剪定をしていた。
 私はお昼ご飯におむすびをにぎり、庭のテーブルにならべた。
 みんなであたたかい陽射しのなかでご飯を食べた。とってもおいしかった。
 こういう機会でもなければ、家族が協力して一つのことをするなどめったにない。父は隠居して酒を飲んでばかりいるし、夫もいつも家事と仕事に追われている。私は私で仕事部屋にこもりっきりだ。
 盛田さんが来てくれたおかげで、みんなで庭仕事をして、家族が一つになって、ほんとうによかったな。
 それでふと、梅の樹を大切にしなさい、というのはこういう意味だったのかと思った。
 梅の樹が私たちを守っているのではなく、この梅の樹を守ろうとする私たちの心が、
ささやかな家族との生活を守るんだなあ……と。
 私たち家族は、みんな盛田さんが大好きになりました。娘もすっかりなついています。
 ほんとうに、とても良いご縁をいただきました。
 聞き耳サイトさん、ありがとうございました。
 これからも、おもしろいインタビュー、たくさん載せてくださいね。
 楽しみにしています。
 田口ランディ

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