第2回 その2

 

日本と欧米では
樹の治療に対する思想が
まったく違うんです。

□うえやま
日本以外の国で樹医さんがいる国はあるのですか?

□盛田さん
イギリスやアメリカなどに、
そういう学校があるというのは
聞いています。
今年の春、できれば、
そのイギリスの専門学校に短期留学しようかと
考えているんですが・・・
英語がぜんぜんなので、困ってます。(笑)

□うえやま
留学するのは、イギリスの方が
木の治療がすすんでいるからなんですか?

□盛田さん
それは、行ってみないと何ともいえないですが・・・。
少なくともイギリスには延命のために治療する
という考え方はないと思いますね、たぶん。

□うえやま
というと?

□盛田さん
欧米では、あまり木に霊が宿るという考え方は
しないと思います。

木に霊が宿ると考えるのは、
モンゴロイド特有のものですよね。
アニミズムって言うらしいですが、そのなかでも、
木に神様が宿るという考え方は
日本特有のものだと思うんですよ。
あるいは、日本人が木の文化を築いてきたから
なのかもしれませんが、
人々の木に対する気持ちは
海外とは違うように感じます。

そんな人々が大切にしている樹木を
延命治療するというのが
日本でのというか、私たちの協会の考え方ですね。
それに対して、イギリスでは危険木を処置するという
考え方みたいなんですね。
枯れてきて危なくなった木を切ってしまうとか、
腐ってきた木を伐採するとか
やっていることは重なるところもありますが、
人々の生活に木が危害を及ぼすかどうか
という視点から、処置を行っている点が違うと思います。

以前、日本でこんなことがあったそうです。
兵庫県の柏原町というところに「木の根橋」っていう
大きなケヤキの根が、
橋に沿って川を越えてしまってるんです。
そこで、ウチの協会の創始者である山野先生(※:最後に注釈あり)が
この木の根の成長に役所の建物の一部が
邪魔になるから、移設したほうがいいと診断したらしいんです。
そしたら、町長さんが熱心な方で、本当に役所の一部が他に
移ってしまったらしいです。面白いでしょ。(笑)

全国には、こんな例が幾つもあるらしいです。
まぁ、さまざまな条件が
上手く重なった例だと思いますけど・・・。
でも、他の国では、わざわざ樹のために、
建物を動かすようなことは
まずないでしょうね。

□うえやま
木に場所を譲ることがあるんですね、実際に。
木に長く生きてもらいたいと思って治療することに、
ぼくはあまり違和感を持たないのですが、
欧米では、そうではないんですね。

□盛田さん
そうですね。
欧米などの先進国では、
だいたい一本の木に注目するというより
エリアで考えるんだと思います。
この山に何千本植林したとか、
この地域を保護林にしたとか、
一本の木を特別に保存しようという試みは
よっぽどのことがない限り、ないみたいです。
ただ、中東や他のアジアの国ではどうなっているのか、
ぼくも興味のあるところですね。

 

※山野忠彦(1900〜1998年)
日本で初めて「樹医」を名乗り道を切り開いた、樹医界の第一人者。
戦後、政府の依頼により全国を視察調査した際、
多くの樹が傷んだまま放置されていることに心を痛め、
独自に研究を重ね治療法を確立。
法隆寺や兼六園などの樹木をはじめ、
全国で1200本を超える古木、名木を治療した。