ローリングサンダーを訪ねて 4

 ローリングサンダーがくれた言葉は、枯れかかっていた僕の心に水を与えてくれた。僕は目を閉じてしばらくは流れ落ちそうになる涙をこらえるのに精一杯だった。

 この後、何度も何度もリクエストされいろいろな歌をみんなで歌った。この時ふと思った。本来歌というのは、このような物だったのではないだろうか。かたことの英語よりも歌でのコミュニケーションの方がお互いよく分かり合えたのだ。皆が集まり輪になって座る。昨日の出来事や、今日の事などを皆で話し合いながら、歌を歌う。悲しい事や楽しい事、うれしい気持ちや、せつない思い、自然への感謝の気持ちetc...

 僕がここ何年か追い求めていたものは音楽を演奏し商業的に成功することであった。いかに売れる曲を作るか、商品価値の有るバンドをつくれるかなど、いわゆる資本主義社会における結果のみを追求していたのだ。いつのまにか何か大切な物を見失っていた。本末転倒である。初めてビートルズを聞いて以来、たくさんの歌に出会い、いつでもその楽曲が持つエネルギーに励まされ、癒され、勇気ずけられ幸せな気持ちになっていたはずだ。僕の演奏を通じて多くの人達と楽しみを分かち合う。その楽曲が持つエネルギーを演奏者の演奏がさらに増幅し、その場にいるすべての人がその幸せな瞬間を共有し合う。それこそ本当に、僕が音楽を通じて成し遂げたい事だったはずだ。今体験しているこの瞬間こそ、まさしく僕の求めていた何かではないのか。それにくらべ、いままでの活動の基となっていたものとは、いかに売れるものを作るかといった、本来あるべき姿からそれた創作活動であったか。楽しく感じたことよりも、ストレスを感じることが多かったのもあたりまえである。目の前のもやが晴れていく様な感じがした。

 ふと時計を見るとそろそろ出発の時間だ。ローリングサンダーは好きなだけ滞在していくと良いといってくれたが、僕達には次の目的地への予定があった。もう少しここに残っていられれば良いのだが。
 「残念だがそろそろ出発しなければならない。」というとローリングサンダーはとても残念そうに、何度も引き留めてくれた。
 「どうしても今日中に出発しなければならない。」そう告げると渋々承知してくれた。
 「すぐに車にのりなさい。」いきなりローリングサンダーが言った。ローリングサンダーが僕らの旅の安全と幸運を祈って小さな儀式をしてくれるというのだ。
 「まだ荷物をまとめていないのだが。」
 「今が出発の正しい時なのだ。早く車に乗りなさい。」フランクに促され、あわててトレーラーハウスに戻り荷物を抱えて車に投げ込んだ。
 「二人とも車に乗りエンジンをかけなさい。」訳も分らず言われたとおりに車に乗り込みエンジンをかけた。皆が僕らの車の前に立っている。ローリングサンダーが何か呪文の様な言葉を唱えながら、きざみタバコを車にかけていた。
 「You'll have a good travel. HO!」

その言葉に送り出され、僕らを乗せた白のポンティアックは「ローリングサンダーランド」を後にした。 


インターステイト80号を走りながら隣でハンドルを握るヒラタ氏に話しかけた。
 「何だか凄い2日間だったね。」
 「ああ、すごかったよ。」
 それ以外は何といってよいのか、沈黙が続いた。二人とも言葉が見つからなかった。いや、言葉は必要なかったのかもしれない。

 不思議な早さで過ぎていった2日間から抜けだした僕達は、それぞれの思いが頭の中を交錯する中、ひたすら続くインターステイト80号を東へと向け車を走らせていた。
 その日は、ネバダとユタの州境のモーテルに宿をとった。熱いシャワーを浴び、ベッドに横になる。しかし、まだ僕自身100%は現実の世界へ戻りきっていないような感じだ。
 ボーッとする頭に浮かんでくるのは、一つのイメージだった。僕達を乗せた車は東へと走り続けている。時がたてばたつほど、カーリンの町からどんどんと遠ざかっているはずなのに、それはまるで一つの大きな輪を描いているかのように、またローリングサンダーの元へと向かっているのだ。



追伸
この旅から、帰ってきて僕はFourDirectionというバンドで音楽活動を再開した。メンバーは以前から一緒に活動していたギターの山田と、ボーカルの高橋、そしてドラムはヒラタ氏だ。ヒラタ氏はいままでドラムを叩いた事などなかったのだがこのバンドに参加している。(ローリングサンダーの前で歌っていた時、彼はずっと小さな箱を叩いていた。その時彼はドラマーになったのかもしれない。)4人のバランスは今まで数々体験したバンドの中でも最高である。メンバー全員が、歌を歌い良い曲を演奏したいというピュアな気持ちで参加している。もちろん良い楽曲を作るということは簡単なことではないし、意見を戦わせないと良い物はつくれないはずだ。でも、それらはたいした問題ではない。なぜなら僕達は今自分達にとって、何が大切なことなのかわかっているし、もう二度と宝物を見失うことはないだろうから。このバンドはグレートスピリットが僕に与えてくれた最高のギフトであり、この世に生の有る限り、続いていくバンドだと確信している。FourDirectionというバンドを通じていろいろな人達と知り合い、楽しい時を共有できればうれしいのだけれど。きっとそれは僕にとってとても大切なsomethingだから。

Thanks all my relations. HO!

FourDirection:万物、すべての方角を表わす。北、南、西、東。大地、空、海、山。白人、黒人、黄色人、インディアンなど。すべてにおいてバランスを保ち続ける事。



本文中におけるローリングサンダーのメッセージの翻訳は、友人の市原真知子さんにお願いしました。