2006/5/24  #2

野風組曲   第2章

アルマンド


なにしろ初めての一人旅である。準備は前の日から、注意深く整える。宛ての無い旅の前日というのは、不安と期待に押しつぶされそうだ。いや、宛てはあった、鳥取砂丘の砂漠ただ一つ。この日のために、慣らし運転を終え、オイル交換もした。事故った場合を考えて、寮の諸先輩方にも連絡しておいたし、部屋の中の恥ずかしいもろもろの物は片して置いた。

以外にぐっすりと眠り、8時半に起きてゆっくりと風呂に入る。身だしなみを整え、昨日準備しておいた装備を抱えてバイクの前にたどり着く。会社の同僚たちが、出陣を見送るために大勢集まっているのを期待していたが、誰一人としていない。やつらはそれぞれゴールデンウィークの帰省だの旅行だので、すでに昨日の晩から、この寮を出て行った後なのであった。セルを回すと、一発で、グゥオンという音と共にエンジンが回り始めた。ふ、相棒の調子はなかなかいいようだ。ライダーの身支度を整え、タンクバックを装着する。地図を確認し、深呼吸をする。

V型250ccエンジンのアイドリング音を聞きながら、今日はただの移動日だ。ただただ東名を走ればいい、と自分を落ち着かせる。午前9時30分、いざ出陣!と、同時に黒猫が前を通り過ぎる、幸先のいいスタートである。

平井インターチェンジから、湾岸を通って東名高速まで一気に踊り出る。踊り出るとは、一体ナニから躍り出るのか分らないが、とにかく首都圏、東京砂漠から踊り出る。皮肉なものだ。砂漠から砂漠を目指そうとは、ずいぶん渇ききっている。

風が強い。きれいな富士山が現れ、得した気分になり、それを横目に通り過ぎる。ずいぶん来たな、腹が減ったので由比のサービスエリアで立ちそばを食べる。時計を見て少しあせり始める。結構飛ばしてるんだけどナァ、やっぱし、朝出るのが遅かったのかしら?浜名湖を通りかかると、三角に帆を張ったヨットが多数出現。尚も激しい潮風のラブコールを浴びる、俺を殺す気か!なんせ、250のバイクなので軽いのだ。横風などまともに浴びたら一気に隣の車線まで持っていかれる。名古屋を通り過ぎる。時計を見る、ヤバイ、7時までにFさんちにたどり着けるだろうか。Fさんとは会社の同期入社の友人で、半年前まで東京に勤務していたが、人事で大阪に異動になり、今は奈良の橿原市に住んでいるのだ。そんなことを考えているうちに二股分岐が出現、あれ、しまった、どっちだろう。わけが分らぬまま、東名阪道へ突入。挙動不審だったせいか、突風にあおられ隣の車線の車にぶつかりそうになる。心臓の鼓動冷めやらぬまま、亀山市をすぎ、伊賀町まで。落ち着いて、Fさんちに電話をすることを思いつく。「少し遅れそうなんですけど。。。」そしたらFさん「なんや、まだそんなとこかいな、もう飲み会、はじまっとるで」だって。ええい、どんだけ遠いんじゃ!やっとの思いで橿原市までたどり着く、Fさんの指示通りトイザルスを探す。どこへいった?トイザルス!犬の散歩をしているおっちゃんに聞いてみる。「あぁ、兄ちゃんそりゃ、トイザルスちゃう、トイザラスや」どっちでもいいから教えてくれ。「日本で最初の店で、大統領も来たンやで」もうええちゅーねん。

そんなこんながあって、ようやくFさんちを見つけることができた。すでに大阪支社の面々が集まって飲み会が始まっている。いろいろ茶化された後、駆けつけのビール一杯を頂く。この後、俺様の記憶はまったく飛んでしまっている。風の音とエンジン音の耳鳴りの中で、一人旅初日の晩は、深い眠りの中に落ちていくのであった。

4月29日、本日の出来高、東京新小岩から奈良の橿原まで約500km。給油2回。