2004/3/10  #13

一般的なよくある所見例

樹木治療のカルテがどのようなものなのか、ウケウリ学でアップしてみようと思ったことがあった。そこで友人にそれを読んでもらったところ、「う〜ん、専門用語が多すぎてわからんなぁ。」という話で意気消沈し、もう少し植物の話を充実させてからにしようと企画は棚上げしておいたのだった。また、そのパイオニアである日本樹木保護協会では以前、診断書を提出したところ、役所担当者が地元の造園業者にそれを渡し、「この通り施工してくれ」などという事件もあった。カルテには樹木を取り巻くさまざまな部分(その家、庭の立地条件、歴史など)が記録されることがあるため、公開すると持ち主のプライバシーを侵害してしまう可能性もある。カルテの公開はまだ少し微妙な段階にあると言わざるをえない。もちろん、通常は、施工者と施主(木の持ち主)とが同じカルテを持ち、管理をしている。この場では、そのカルテをもう少し噛み砕いて、よくある問い合わせや治療例を盛り込んでまとめてみた。


一般的なよくある所見例


樹木の剪定について。
本来、樹木を剪定するということは樹にとって養分を生産する工場を奪うストレスであり、成長を制限する作業です。と、こう言ってしまうと剪定行為が罪悪だと捉えられがちですが、そうではありません。場合によっては時期をみて剪定しなければ木が良くならない事もあります。では、どうして剪定をしなければいけないかといいますと、限られたスペース(お庭)で長い間、木を生かそうとする人間の経験から生まれたワザとでも言えばいいでしょうか。お庭をひとつの熱帯魚の水槽だと思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。この魚をいつまでも長生きさせようと思うと、天敵を入れないのはもちろんのこと、水槽の藻類の繁殖を防ぎ、温度を管理して、えさをやり、フィルターを掃除しなどなど・・・循環をさせるたくさんの仕事をしなければなりません。植木屋さんの仕事はそれなんですよね。庭という空間は、枝葉も根も際限なく成長していける条件にはなりにくい環境にあります。日当たりや風通しなんかを考えて、残しておいても良くならない様な枝は剪定し、成長を押さえて、細く長く、すべての木がバランスよく樹勢が整うようにお庭で管理されていくことになります。ですが、毎年切るのが当たり前のように思われるとまた困ってしまいます。去年に比べて芽吹きが少なかったり、葉の色が悪くなってる、樹勢の良くない木はその年の剪定を控える(触らない)様なこともします。

剪定をして、枝を持ち出して処分すると、その土地から枝や葉っぱの乾燥重量分の栄養が収奪されたことになります。
その収奪したぶんの栄養を補うために、植木屋さんは肥料を庭のあちこちにスコップで掘ったり、鉄棒でつついたりしてあげるわけですね。このとき、庭の狭いエリアにびっしりと張ってしまった根っこもまた、ちょっと切ってしまうわけです。ちょっとくらいならいいんです。全部の太い根っこを切ってしまうと、木は枯れてしまいますが、毎年ちょっとづつ場所を変えることによって、根っこの新陳代謝を促し、枝葉の剪定とちょうどバランスが取れるという具合になるのです。花が終わったあとや実を収穫した後、それから大阪近辺では12月から3月上旬くらいまでの木が休んでいる間に肥料をやるわけですが、どのくらいの肥料をやればいいかといいますと、その年に落ちた花・実・葉・枝の乾燥重量が一つの目安になります。多すぎるよりは少し足りないくらいの方がいいです。人間も植物も腹八分目がいいのかもしれません。ただ、関東ローム層などの火山灰土の土壌を持つところでは例外で、ちょっと多めに肥料をあげたほうがいいでしょう。土中のケイソやアルミナと肥料分がくっついて、思っているほど植物に肥料が効いてこないのが痩せ地の悲しい歴史でもあります。

どんな肥料をどんな割合でということについては、いつか「リービッヒの最小率」というテーマでウケウリ学にアップしたいと思います。

幹の腐っている部分について。
最初は私も、どこが生きていてどこが枯れているのか判別できませんでした。でも慣れてくるとすぐにわかるようになります。どうしてもわからない場合は、木の皮をちょっとだけ傷つけて内部の状況を確認します。樹木は形成層と呼ばれる、葉っぱと根っこをつなぐ血管の様なものが幹や枝の外側にあって、極端な話、丸太の中がくりぬかれても、外側のその血管さえしっかりしていれば生きていけます。そこで、木の皮を少し剥いでみて、ピンク色や黄色、黄緑色などをしていれば大丈夫、その部分は生きています。枯れていると、茶褐色になっていてコンコンとノックしてみても乾いた高い音がすると思います。こうなるとその幹の部分は枯れていることになります。形成層は幹をラセン状に上っていきますので、枯れはラセン状に広がって行きます。この枯れを腐朽傷と呼んで、木材腐朽菌という菌がどんどん木を腐らせていくわけです。多くの場合、この腐朽傷は剪定した枝の傷口や折れた幹・枝、鹿やウサギにかじられたり、穿孔虫と呼ばれる樹に穴を開けて食い荒らす虫などによって最初の原因がもたらされます。この腐朽菌が繁殖して充実してくると子実体を形成するようになります。つまりキノコですね。木からキノコが出ていたとしたら、かなり末期的に腐朽菌に侵されていると見て間違いないでしょう。樹木の枯れた枝や腐った幹は、二度と再び蘇生することがありませんので、適切なやり方でそれを取り除きます。そのあと、薬剤消毒を行って、木質を保護する特殊な塗り物をして手当てをするわけです。そしてここから先は樹種や状況に応じて「外科的閉塞処置」や「やぶかいの技法」、「ウレタン樹脂コーティング」などのさまざまな方法で処置を行います。

木を腐らせる木材腐朽菌と樹木と共生している菌根菌については、また別にウケウリ学で取り上げたいと思います。簡単に見分ける方法は、例えば、シイタケとマツタケを思い浮かべてください。木から出ているシイタケは木を腐らせる、樹にとって悪い影響を及ぼす菌で、土から出ているマツタケは木の根っこと共生していることが多い菌の代表、と言えばいいでしょうか。実際に私たちは、共生しているキノコを採取してきて、ミキサーにかけ、散布するという治療をすることがあります。

支柱について。
枝や幹がボロボロに腐っている場合など以外は、安易に支柱をすることをお勧めしません。よく天然記念物などの樹木を保護しようと、立ち上がる方々が支柱をしようと思われるケースが多いようですが、必ずしもそれがいいことではありません。コラム「ユニフォームストレスの原理」を読んでいただくと想像できると思いますが、樹木にはある程度の風ストレスがあるほうが自身の体を丈夫にしていく作用がありますので、今後どういう管理をしていくかを考えて、支柱の必要性、支柱の種類と強度を検討しましょう。
(ここまで書いてちょっと息切れがしてきました。ふぅ。)

根圏土壌の状況について。
お庭でよくあるのが、深植えの問題や樹木を取り巻く石組み、それから排水障害などです。
深植えとは、本来植物にとって適正な地面の高さを越えて、土をたくさん盛りすぎ、木の根や土中に住むバクテリアなんかが窒息状態になり、木が弱ってくることをいいます。山にある木を思い浮かべてください。ハイキングをしているとき露出している木の根っこを踏んで歩いた記憶はありませんか?本来あのレベルで樹木の根は四方八方に露出しているのです。もちろん山では地質が岩盤なため露出しやすいのですが、近畿圏では地表から30〜40センチまで、関東では60〜70センチまでくらいの深さが、樹木にとって一番重要な土壌ということになります(樹木の大きさにもよりますが、おおよそです)。その土壌に、木の持ち主が寒くてかわいそうだからとか、家の増改築などによって、木の周りにたくさんの土が入れられ地上げされたりすると、今まであった根っこが酸欠を起こしたりして衰弱してくるわけです。

樹木の周りに石組みがされている場合も、ある一定の状態を超えると、バランスに弊害が出てきます。よく植木鉢の植物が2年も3年もすると鉢いっぱいに根がびっしりと張ってしまって、さらに鉢底から根を発達させて地面にまで張っているのを見かけます。この土に根がびっしり張りすぎて鉢の内側を回り始めたり、自分自身の根を絞め殺すような状態に陥ってきます。これらを「根詰まり」「まわり根」「絞め殺し」などと言ったりしますが、この様な根の成長限界を迎えると、旺盛に成長していった枝葉に養分や水分を送ることができなくなってきます。そうすると、葉っぱの色が悪くなったり、小さくなったり、枯れ枝がでてくるような反応を示します。石組みも植木鉢の状態と同じだとイメージしてみてください。しかも、石組みの目地をモルタルで決めてあるものは、顕著にこの影響が出てきます。

排水障害は樹木が衰弱してくる根本的な原因として、かなりの割合で私たちの前に現れてきます。もし、植木屋さんが「地が固い」とか「湿気てる」などといって、木の周りの土に問題があることを示唆してくれるようであれば、なかなか目の利く植木屋さんだとみていいでしょう。前述しました、樹木にとって重要な土の層、近畿圏であれば地面からおよそ30〜40センチくらいまでの層に水が停滞してしまうと木の根は呼吸できず、腐ってきます。そうすると葉っぱは全体的に黄色っぽく変色して、だんだん色あせてきます。最後には茶色になり葉っぱをつけたまま枯れるといった具合です。こうならないために、この大事な土の層を雨水がス〜っと通り抜けて、もっと下の土の層にしみこんでいく土壌が理想です。土の質も田んぼにあるような粘土のような土では水が通って行きません。業界では「団粒構造の土」などと呼んでいますが、簡単に言うと少し固めのスポンジのような状態になっているとイメージしてみてください。自然の山の土壌は一日に3回くらい空気が入れ替わっていると、言っている学者さんがおられます。やはり土も呼吸しているんですね。呼吸するには雨水や微生物たちの活動が欠かせませんが、その前提として、土が団粒構造である必要があるわけです。では、この土をス〜っと透過していくスピードを超えて大雨が降ったらどうなるでしょう。しみ込むことができない水は、土の表面に溜まり、低い方へ低い方へと流れ始めます。そしてお庭の場合、行き着く先は雨水を集めるための雨水会所へと落ちていきます。
このとき、雨水会所までの勾配(傾斜)がきちんと取れていないと、庭に水溜りができてしまいます。今まで治療をおこなってきた現場では、土壌の底面が粘度質の土だったり、排水勾配が適正でなかったり、雨水会所がつぶれている、もしくはパイプが詰まっているなどといったことが、さまざまな問題を引き起こしていることがありました。

これら根圏土壌の改善をおこなうには、わりと大掛かりな土木作業を行い排水環境をきちんと整え、深植えのものは、土をとって適正な位置まで戻し、石組みのものはモルタル目地を取ったり、石組みの一部(全部の場合も)を撤去、または石組みを一回り大きくするなどといった方法で、土壌改良とあわせておこないます。

お水やりについて。
「水やり3年」などと私たちの業界で言われていますが、一年を通して、その植物が本当に欲しいだけの水をタイミングよくあげられる様になるまでには、3年はかかると親方が言っていました。私もなんとなく庭にホースで水をまくくらいなものだと思っていましたが、実はそのくらい水やりは難しいものなんですね。水やりというと、植物に水だけをやっていると思われがちですが、違います。私たちが水やりをする理由は大きく分けて3つくらいになるでしょうか。一つはまさに植物に水分をあげる為です。ところが前述の団粒構造の土壌にお水をまいても、その土の中に植物が吸収することができない水分が発生するのです。詳しいことは、また後でまとめますが、まいた水が100%植物にまわるわけではないことを覚えておいて下さい。それと植物の根は酸素も肥料分も水分を通して体に吸収します。共生している菌根菌が助けてくれる場合を除いて、水に溶けた酸素やイオン化したミネラルでなければ食べれないのです。そういう理由もあって、お水やりは空気や肥料をあげることにもなるのです。もう一つ補足しますと、一時に大量の水が浸透していきますと、その後で空気が引きつられて土の中へ入っていきます。この新鮮な空気が土の中に住むバクテリアたちにもよい環境をもたらして、根圏土壌のバランスがとれるという訳です。

ランディさんにお伝えした、植木鉢をタライにどぶっとつけて、半日くらい(実は半日はちょっとオーバーに言ってしまいました(笑)。でも、夏場に一週間ほど家を開けて、帰ってきたとき植木鉢の植物が瀕死の状態であれば、半日から一日水につけておく事もありますよ。)と言いましたが、まあ、鉢の底からジワ〜ッと水がしみてきて、鉢の上までヒタヒタ浸かって、土から気泡が出なくなったら、鉢を上げて水を切ってもらうようなことでいいでしょう。コップなどで鉢の上から水をあげると、どうしても水の通り道ができて決まってしまい、鉢の中の土全体にいきわたることが難しいように思います。本来、庭木であれば冬場、樹木の休眠期はさして水やりの必要はありませんが、家の中に入れて管理している鉢物はエアコンが効いている室内に一日中いるわけですから、土の様子を見て乾燥しているなら時々お水にどぶっとつけてあげると良いでしょう。

お庭でもいっしょで水撒きをして、結構あげたなと思うところで、一度その場所を掘ってみてください。おそらく土の5センチ下は水やりをする前とほとんど変わってないくらい湿ってないと思います。そこで、有名な庭園を管理されている方々は、夏場の毎日の水やりも、もちろん大事ですが、2〜3日とか3〜4日に一度やるチョロ水(ホースからちょろちょろと少しの水を長い時間流す水遣りの仕方)の方を重点的にしているくらいです。

これらの土の改良や水やりの効果を高めるために、私たちはマルチングということをおこなったりします。自然の山の中では普通、土が露出して見えることはあまりありません、そこには落葉が堆積していった層があるからです。林床と呼んだり、A層もしくはA0層などと呼んだりしますが、この落葉の層が豪雨が降っても緩衝して吸収したり、土壌から蒸発する水分を抑えたり、土の中に住むバクテリアによい環境を与えたりと、かなり良い効果をもたらします。そんなわけで、人為的に林床をつくるために腐葉土を樹の周りに敷いてあげたりするわけです。
今回は、病害虫やその他特殊な例を除いて、お庭における一般的な事例を元に簡単にまとめて見ました。これらの管理さえできていれば、通常は、樹木がトラブルを起こすことはあまりないと思います。管理と予防さえできていれば、まさに医者要らずといったところでしょうか。厳しいですが、これは私の望むところです。いろんなお問い合わせを頂いて、通常上記の所見の内容をお伝えし、簡易な処置で対応できる場合は、施主さんの出入りの植木屋さんにお伝えいただくとか、施主さんご本人にしていただいたりします。ちょっと手に負えないなと、感じた場合は一度現場にお伺いをしまして診断書(カルテ)を作成するといった流れになるわけです。とりあえず、こんなところでしょうか。

ここの所バタバタしていて、すでに放心状態に入っとります。私は白目をむきつつキーを叩いておりますので、おそらく書き忘れたこと、誤字脱字など、たくさんあると思いますが、それはまた後でなんとかしましょう。