2003/11/14  #12

紅葉のしくみ 〜その4〜


さまざまな色彩を楽しませてくれる紅葉。
その立役者である色素たちのことについて少しだけ、
こぼれ話をご紹介したい。

植物を彩る色素は大きく分けて
・葉や若い枝にあったりする緑色のクロロフィル類。
・葉、花それと果実に広がる赤色、黄色、橙色などのカロ
チノイド類。ニンジン、かぼちゃ、柿、トマトなどに多
く含まれる緑黄色野菜のカロチンはこれのこと。
・葉や花その他各部分にも広がる白、黄、赤、ピンク、紫、
青のフラボノイド類(紅葉のアントシアン系色素はこれ
に含まれる)。
・樹皮や根に含まれる赤、黄、紫色など古くから染料に使
われているキノン類。
などがある。

これらの色素を覚える必要などないと思うが、(来週くら
いには私もすべて忘れている)身近なところで知っていて
損はしないことを取り上げてみた。

紅葉で活躍するアントシアン系色素は酸性で赤色、中性で
紫色、アルカリ性で青色を示す性質がある。小学校のころ
理科の実験で使った「リトマス試験紙」はこの反応を利用
して作られている。イチゴやシソの葉、ブドウ、ブルーベ
リー、すもも、茄子、紫キャベツなど、多くの植物に含ま
れている。ちなみに茄子の紫色はナスニンという色素でシ
ソの葉の赤紫はシソニンという色素だそうだ。そのまんま。
第二次大戦中、英国かどこかの空軍兵士に極めて視力のい
いパイロットがいた。彼は夜間でも難なく飛行でき、遠く
のものまで認識する能力は抜群によかった。どうして彼だ
け視力がいいのか研究者が調査したところ、それは毎日パ
ンにぬって食べるブルーベリージャムにその秘密があった。
ブルーベリーの中に含まれるアントシアン色素が彼の視力
を高めていたのだ。そんな話を以前何かで読んだ気がする。

もう一つの色素、カロチンは動物体内では分解されてビタ
ミンAとなる。上記のアントシアン同様、抗酸化力(活性
酸素を撃退する力)も持っておりストレスの多い現代社会
で以前から注目されている。カロチンは水に溶けにくく、
油に溶けやすい性質があるので、油を使って調理すると効
果的にカロチン類を摂取できるそうだ。どちらの色素も視
覚、聴覚、生殖維持機能、免疫機能などを高めることがわ
かっており、さらに研究が進められている。ヒトの目に鮮
やかに写る色とりどりの野菜(植物)を食べると、視覚を
高めるという効果はなんとも不思議な繋がりを感じてしま
う。

それとシリーズで省略した内容の中に芽吹きの紅葉がある。
葉が赤くなったり黄色が強い黄緑になったりするのは、な
にも紅葉の時期ばかりでなく、新芽が芽吹いてくるときに
も樹種によって紅葉と同じような現象が見られる。アカメ
ガシワやベニカナメモチ、ノムラモミジなど幼い葉が展開
して葉緑素が生産できるまでの間、赤い葉っぱになり紫外
線から身を護るための工夫をしている。

もともと色というのは、その色素分子が太陽の光のある波
長だけを吸収できないことから、残ったその波長を見て、
たまたま人間には、なに色に見えるということのようだ。
なので「植物はじつは緑色が食べれないんだよ。」という
言い方をする先生もいる。何色が好きかというと、赤色と
青色を好んで食べている。この辺は光合成か光ストレスを
テーマにしたときに取り上げたい。

前回、少し触れた水辺の近くの紅葉というところで、落葉
した後の葉がどうなっていくのか、後を追ってみよう。

渓流の両斜面に広がっている独特の植生は、近頃注目され
ている。葉っぱが薄い(分解しやすい)植生を持つ「渓畔
林」は、渓流の上に覆いかぶさるように発達している。こ
のため、日の光が川まで届かず、夏の間は水温が低く保た
れる。河床には藻類が繁殖しにくくなり、きれいで冷たい
水にしか住めない魚、イワナやアマゴなどが住める環境に
なる。下流までの水温の幅は生物の多様性を生んでいるら
しい。

谷底から斜面の頂に向かって徐々に変化していく植生は、
カエデやシナノキ、湿地に強いハンノキ、トチ、クルミ、
カツラなどの落葉広葉樹たち。そしてコナラ、ミズナラ、
ブナなどへと変化していく。このあたり(近畿圏)では徐々
に照葉樹の森へと変わっていったりする。

晩秋に美しい紅葉を見せた葉は、やがて落葉し、それと共
に葉や枝についていた昆虫たちも川に落とされ、冬をひか
えた魚たちの貴重な栄養源となる。葉に残っていた養分の
うち、水に溶けやすいものは流れに乗って海まで運ばれる。
あるいはバクテリアに吸収され、食物連鎖を経て魚に取り
込まれるかもしれない。流れの途中で堆積する葉っぱは微
生物や菌類などに分解され、水生昆虫のえさとなり、さら
に大きな捕食者へと繋がってゆく。森から生み出されるミ
ネラルは、川という大きな流れの中でたくさんの生命を育
み、大海へともたらされる。

そして時を経て、遡上してくる生命たち(サケやアユなど)
によって、海から森へと貴重な塩分やミネラルが供給され
ることになる。彼らの屍は鳥や小動物、そして大型の動物
へと還元され、彼らがそのいのちを閉じるとき、大地は彼
らを分解し、再び植物たちに吸収されてゆく。

彼らは、こんな命の廻りを何度も何度も繰り返してきた。
紅葉のしくみを書き始めた当初、たった一枚の葉が色づき、
落ちてゆくその先のことなど考えてもいなかったが、自分
でも想像していなかった生命のめぐりがあることに気づき、
ただただ驚かされるばかりだ。「紅葉のしくみ」はまた、
大きな循環のしくみの中の一部にすぎないようである。

紅葉シリーズは今回でひとまず置いておくことにするが、
また新たなテーマができてしまったので、腰をすえて研鑽
を重ねていきたい。        シリーズ おしまい