2005/12/23  #28

月月火水木金金

「山本キッドと須藤の対決は年末かぁ」
と、お盆休みが終わった頃、だいぶ先のように感じていたのが、
今がもうその年末である。この半年間、土日祝日なんのその、雨の日もまともに休んでいないワタクシは、ノックアウト寸前のK−1ファイターのようにヘロヘロになっている。
あぁ、誰かタオルを投げてくれい!

造園屋・植木屋家業であるドボク族はお盆休みを終えた頃から、にわかに忙しくなる。それは、毎年恒例の管理業務で、たくさんあるお得意先を、一軒一軒まわって庭木の剪定とお掃除をしていく仕事に追われるためだ。季節労働者のようになってしまう背景には、一つは植物のライフサイクルの問題と、もう一つは人間の都合の問題である。植物の問題で言えば、この辺(関西)ではお盆から3月くらいまでは、おおよそ剪定の時期と言っていいと思うが、もう一つ、人間の都合である「お正月は、家も庭もキレイにして迎えたい」問題があるがために、世の植木屋さんたちは年末に向けて仕事の段取りを付けていくわけである。

何十軒、百何十軒というお得意先を持っていて、お盆から正月4〜5ヶ月の間も他の仕事が当然入ってくるわけで、人気のある造園屋さんは、管理の仕事と造園・外溝工事の仕事、そして公共工事のために、応援の職人を呼んだり、下請けに振ったりと、段取りが大変なわけなのだ。

そしてワタクシの場合、幸いにしてフリーランスで一人親方。さして人気もなければ、嫌われてもいない、気楽によその造園屋の応援で、のほほんと生活さえできていたら良いかなぁと思っていたのだが、どうもそうは問屋が卸してくれそうもない。なぜなら、ワタクシの場合は、ガチンコ連隊長殿の問題が重なってくるからである。トホホなのだ。

近所に住む、昭和ヒトケタ生まれのOさんは、ワタクシは数年来お付き合いがあり、また仕事でもお世話になっている植木職人のおじいさんである。(本人は年寄りという自覚はない)戦時中、14歳だか16歳頃に志願兵として入隊し、もう少し戦争が長引いていたら出撃していたところで終戦を迎える。その後、開拓団のようなところで広島の山奥で共同自給自足開墾生活。ひょんなことから大阪の大学付属の植物園に入り40年ほど勤める、(その頃から休日の仕事、自分の植木のお得意先を開拓して行ったらしい)定年後、さらに10年ほど造園屋でバリバリ働いてから退職。その後、独立していまだ現役、今日に至る。もう75歳である。「年金だってもらってるんだし、そんなに働かなくてもいいんじゃないでしょうか?」と、声をかけたくなるほど、よく働く。そのほかにも田んぼが3反と畑が1反、家の周りは果樹だらけで、その上、養蜂もやっているというスジガネ入りの昭和ヒトケタ世代。庭木の手入れのお得意先は数十軒で、二人で消化するにもまず無理な状況にまでお客を抱えこんでいる。生活の中で、少しでも隙間があれば、何かを植えてみようとか、土地を買って耕してみようとか考えている様、そのあくなき開拓魂にはまったく持って恐れ入るが、世知辛いといえば、まったく世知辛い、一年中20時間労働をしているような、お人である。

そんなガチンコな開拓老人が、今年の夏に、頭に大怪我をし、もうぼちぼち自分の引退を考えるようになったらしい。ワタクシの記憶にある限り、Oさんの引退説は3年前からあるので本気にはしていないが、自分の手入れのお得意先を全部おまえにやるから、引継ぎすると言ってきた。ワタクシは混乱してしまった。大変なことである。なまじ近くに住んでいるために、いろいろな面でお世話になってきたため、むげに断ることもできそうにない。うーむ。

普通ならば喜んで受けるのが当たり前なのかもしれないが、そのOさんの現場は朝7時から日の暮れるまで働きどおしが慣例になっている。10時のいっぷくも、3時の休憩も5分かそこらで早々と切り上げ、昼ごはんも、いつ敵が攻めて来てもいいようにかき込み、お茶を一杯すすり、屁を一発こいてから、もう仕事が始まる。12時15分にはもう仕事に取り掛かっているセワシナさだ。そういう現場のお得意先を何十軒も抱えることになると思うと、非常に気が重いのである。「連隊長殿、ワタクシは転進させていただきます!」と雄叫びをあげたい。ここ数年、できるならばこのOさんの仕事の手伝いは敬遠して、他のゆとりのある現場に行くようにしていたのだが、ここに来てもう観念せざるを得ない状況になってしまった。

もし朝の7時、あなたが朝飯をすませ、ウンコを気持ちよくしているその時に、「ピンポーン!おはようございます!植木屋ですけどォ。」と来られたらどう思いますか?

しかし、この半年近くワタクシはそのガチンコ連隊長殿についてきた。フリーランスになったのは、仕事に忙殺されることよりも、もっと大事なことがあるはずだと思い、ロハスな生活を営むつもりであったのが、いきなり「天皇陛下(てんのうへいか)の「てぇ」言われたらキオツケせなイカン!」そういう時代に引き戻された感がある。精神的なことやビジョンについて考える時間は、ここ数年まったく停滞しているが、なんとなくワタクシは、この昭和ヒトケタのガチンコ連隊長を真正面から見据えなければいけないような気がしている。

今日は冬至で大阪にも雪が積もった。連隊長殿もさすがに「今日はおいとこか。」と、吹雪をみてカンネンしたようである。雪国育ちのワタクシは雪を見ると不思議と落ち着きを取り戻す。今日は休みだ、雪見酒ができる。はぁ〜、とため息をつき、ふと、カミサマに感謝した。

去年は12月31日まで、このOさんの仕事に付き合わされた。
さて、今年はどうなることやら。。。