2003/10/9  #21

おめでたい男

雨だ。
あ〜あ、今日も現場、空けかぁとため息をつきつつ、
外を見てみると、しとしと雨が降っている。うっ、さぶ。
今年の雨の降り方はどこかおかしかった。なんだか熱帯雨
林のようにザーザー降りになったかと思うと、急にからっ
と上がったりする。
しかし、今日の雨はなんだか秋っぽい、しとしと雨だ。
久しぶりに梅田にでも出かけるか、と重い腰をベッドから
引き離した。

こうしてドボク族の休日は突然やってくる。
休日ともなると、人々はアウトドアなどと称し、余暇を自
然の中で過ごす人が増えたが、ドボク族の人たちは、ふだ
んからアウトドアで仕事をしているので、休みの日くらい
は2度寝3度寝を楽しんだり、部屋の中でコーヒーを飲み
つつ本を読んだりしている。しかし現場と家を行ったりき
たりするだけでは、なんだか世間に置き去りにされている
ようで、ときどき用もないのに都心に行きたくなるのだ。

ホームから電車に乗って、しばらくして気がついた。
どうも車内の人がワタクシのことをじろじろと気にかけて
見ているようだ。
そうか、ドボク族であるワタクシもついには有名人の仲間
入りをして、世間の人の注目を集められるまでになったの
か・・・
きっとあのじっとワタクシを見ている女性は、
「あの人けっこうイケてるかも」などと思っているに違い
ない。はずかぎもちいい(恥ずかしいけど少し気持ちいい)
思いを抑えつつも、気分よく車内の中吊り広告を見まわす。

ワタクシもそろそろビジュアル系樹医として芸能界にデビ
ューし、テレビ出演できる日がくるかもしれない。
そのうち、ファンクラブなるものができて、女性たちに黄
色い声を浴びせられて追いかけられるのだ。
ふむ、なかなか悪くない。
サインも考えておかなくては。
いや、まてよ。そうなると今までのようにフー族の人たち
との交流や、いかがわしいホテルに入るなどといったこと
は、充分に注意しなくてはいけないな。
そしてさらにハリウッドデビューもして「ダークエンジェ
ル」に出てくるマックスとの結婚も夢ではなくなるかもし
れない。

そんなことを考えながら車内の広告を見ていると、近くの
女の人同士がこちらを見てひそひそ声で何か話している。

どうも何かがおかしいなと思いながら、広告の横にあるス
テッカーを見て驚愕してしまった。
そこには「女性専用車両」と書かれている。

(え?なにそれ?)恐る恐る見回してみると、たしかにみ
んな女の人ばかりが車内にいる。いつからこんな車両がで
きたんだろう。うーむ。

しかし、いかにもとり乱して車両を出て行くようでは、あ
まりにもぶざまだ。それは美しくない。ここは、そ知らぬ
ふりを決め込んで次の駅で降りてしまおう。

突然、ケータイ電話が鳴ったので、ポケットからだそうと
あわてていると、ティッシュが床に落ちてしまった。
しかしよく見るとそれには、「女性用生理用品」と書かれ
ている。いつかティッシュと間違って買ってしまった物だ。

ハッ!として慌てて拾い、ポケットにそれをしまいこみ、
ケータイの電源を切った。恐る恐る見回してみると、女性
たちがけげんそうな目でこちらを見ている。

(うわ!めっちゃ見られてるー!)
ワタクシはケータイでメールをする様なフリをしながら、
次の駅がくるまで途方にくれるのであった。

窓の外はしとしと雨だ。
放出の駅で降りて、折り返し会社に電話をしてみると、
「来週からの現場の下見に行くからすぐ戻ってこい!」
とのことだ。

ドボク族の人たちは、だいたいこんな休日を過ごしている。