2003/5/31  #19

風邪の又三郎氏、来日

(ミッションインモラル2はまたの機会に変更しました)
彼を呼ぶには、ドボク族に伝わる四つの呪文のうち、
そのひとつ、風の呪文を唱えなくてはならない。

「北と東と南と西から
いつもいい風がわれわれに吹きますように・・・」

とたん、突風が目のまえで竜巻をつくり、ガラスのマントをまとった又三郎が現れた。
「へ、へっきし!」
「やぁ、又三郎君!ひさしぶりだね。」
「へっきし!」
「大丈夫?」
「こんなのへっちゃらさ。」
「君でも風邪を引くことがあるんだ?」
「そりゃぁあるさ。弟にうつされちまったんだ。」
「弟なんかいたっけ?・・・名前は?」
「又三郎だい!」
「そうだった、そうだった。お父さんもお兄さんも又三郎だったね。」

又三郎は急に不機嫌そうに眉をよせた。

「・・・と、ところでイギリスでチラッと見かけたけど、
ずいぶん忙しそうだったじゃないか。」

「あぁ、あの時は北のほうの島で、大きな氷の塊が海に落ちてね。急にかけなくちゃならなくなったんで、仲間がみんな集まっても間に合わないくらい大変だったんだ。今年の冬は寒かったろう。今はサイクルホールの斥候になって少し休んでるところさ。」

「ふ〜ん、いいなぁ身軽で。一度でいいから、そよ風になって女の子のスカートの中とか見てみたいんだけどなぁ。」

「へっきし!・・・お前は相変わらずだめだねぇ。なぜ人のことをうらやましがるんだい。僕だってそんないいことばかりじゃなくつらいことはいくらもあるんだい。君らだってたくさんいい事があるんだい!」

「・・・(あ、やっぱり見てるんだ)。」

「僕は自分のことはいっこう考えもしないで人のことばかりうらやんだり、ばかにしているやつらを一番いやなんだぜ。僕たちの方ではね、自分を他のものと比べることが一番恥ずかしいことになっているんだ。僕たちはみんな一人一人なんだよ。僕たちの一年に一ぺんか二へんの大演習の時にね、いくら早くばかり行ったって、後ろを振り向いたり並んで行くものの足並みを見たりするものがあると・・・へ、へっきし!失礼、もう誰も相手にしないんだぜ。やっぱりお前はまだまだだねえ。以前と変わらず他のものと比べることばかり考えているんじゃないか。」

「うーん、どうしてだろ。人と比べてないと安心できないからかなぁ?自分の居場所の確認っていうか・・・しかし、まぁなんだね、最近はずいぶんサイクルホールが大きくなってきてるじゃない。大きくなるにつれ建築基準とかが変わるから、ほどほどにたのむよ。」

「ふふ、そらきた。サイクルホールが毎年大きくなってることを悪く言うんだったら、それはお前たちの問題だよ。
お前たちはまるで勝手だねぇ、僕たちがちっとばかしいたずらをすることは大業に悪口を言って、いいとこはちっとも見ないんだ。僕に言わせたら、お前たちのほうがずっとずうっと悪いことをしてるのに。でも、他のものと比べたりすることを善く思っていないから誰も言わないだけでね。
僕たちだってわざとするんじゃないんだ。どうしてもその頃かけなくちゃいけないからかけるんだ。それは他の連中だって一緒さ、いちどきにたくさん沸いて出る生き物をお前たちは害虫なんて呼んでるけど、お前たちのほうがよっぽど害虫なんじゃないのかい?あいかわらずやりたい放題だし。

この星ではね、みんな紙一重のところで生きてるんだ。大気や土、水、そして樹、外側のほんのうすっぺらいところで、すごく危ういバランスの中で生きてるんだ。そのバランスをとるためにたくさんのいのちたちが必要だし、大循環やサイクルホールが必要なのさ。

おまえが言いたいことは知ってるよ。樹を倒すことを悪く言うんだったら、これだって悪戯じゃないんだよ。倒れないようにして置けぁいいんだ。葉の広い樹なら丈夫だよ。僕たちが少しくらいひどくぶつかったってもなかなか倒れやしない。それどころか、樹は僕たちを利用して強くさえなってるんだからね。知ってるかい? 僕らは受粉の手伝いも毎年やってるんだぜ。それに林の樹が倒れるなんかそれは林の持ち主が悪いんだよ。林を伐るときはね、よく一年中の強い風向きを考えてその風下の方からだんだん伐って行くんだよ。林の外側の樹は強いけれども中の方の木はせいばかり高くて弱いから、よくそんなことも気をつけなけぁいけないんだ。昔の人は、僕たちが林の中をまっすぐ通り抜けることができないように巻枯らしなんて言って樹を立てたまま枯らしてたくらいさ。」

「へぇー、よく知ってるねぇ。」

「ふん、だいたい、せっかく根っこが深く入る木と浅く入る木とバランスよく手をつなぎあってるっていうのに、山の木を伐るだけ伐って葉っぱの細い木ばかりを植えるから森のスポンジがなくなってしまったのさ。おまけに、あちこちの川や用水まで硬く3面に囲ってしまっただろう。僕たちの間じゃぁ、あんなことしたらすぐに水があふれるに決まってらぁ、と笑い話にしてるんだぜ。
だからまず僕たちのことを悪く言うまえによく自分のほうに気をつけりゃいいんだよ。へっきし!・・・この風邪だってサイクルホールとおんなじことさ。知らないかもしれないけど、この世界の法則ではみんなそうやって生きてるんだ。

・・・どうしたんだろう、急に向こうが空いちまった。僕は本隊に合流しなくちゃいけない。これでお別れしよう。」
「も、もう行ってしまうのかい?」

「あぁ、そうそう、めいとりくす長老が、たまには例の場所に顔を出しなさいってさ。さあ、僕は今日もいそがしい、
さようなら。」

又三郎のガラスマントがぎらっと光ったかと思うと、もうその姿は消えてたちまち見えなくなってしまった。

「めいとりくす長老が・・・なんだろう?」