2002/10/18  #9


マシラ一族の秘術

じつは、と言い始めるとあらたまってしまうが、
ドボク族には
SH事業部やドボク鉄道調査課、マシラ一族など、
なにやら謎めいたセクションがいくつかあり
少人数の部族であるにもかかわらず、
経費をふんだんに使って多角経営している。

その中で今回は、マシラ一族(ましらいちぞく)。
ドボク族のなかの対高所作業特殊部隊とでも言ったらいいだろうか。
樹冠の先端部分にある枯れ枝や折れている枝を剪定したり
樹高40mクラスの巨木の突端まで行って、
傷の処置をしてくる作業は、ときに命がけである。
(枯れ枝や途中で折れて引っかかっている太い枝は、生きている枝を処理するときよりも、動きが読みにくいのでキケンなのだ。)
それを見ているほうは仕事の花形扱いしてくれるが、
現場の人間にとってはお互いに遠慮し、
譲り合うポジションだ。
そんな時、無言のまま樹に登り始める男たちがいる。
彼らは、レスキュー用の特殊なハーネスを装着し、
命綱はもちろんだが、バックアップロープや
樹の東西南北に張る補助ロープ、荷降ろし用通いロープ、
枝下ろし用ロープに誘導ロープと、
実にさまざまなロープが交錯する中、それらを駆使して任務を全うする。
ある時は宙づりになり、またある時はゴンドラに乗って空高く舞い上がる。それがマシラ一族だ。

そんな誰でもがなれるわけではない
「マシラ」になるための極秘訓練は、
かの有名な米軍のシールズ(特殊部隊)でさえ悶絶うって
脱落すると言われている。
それは想像を絶し、過酷を極め、
なんとなれば廃人になってしまうかもしれない。
今回、特別に聞き耳ファンのためにその一部を公開すると、(なにぶん特殊部隊なので、全てを明かすことはできない。)

まず、地獄の一週間は、
繁殖させたチャドクガとイラガ(どちらも毒ケムシ)の海に
競泳用パンツで飛び込み、
二週目には、
60代のフー族のエキスパートたちと
湯船の中で水中訓練をし、マットの上で寝技をマスターする。
三週目、
ヒイラギの生垣にダイビングし、バラ園の中をほふく前進する。そして、ピラカンサの枝が敷かれている廊下を
はだしで欽ちゃん走りできると、めでたく仮免試験合格である。
四週間目にやっと実地訓練に入り、
ロープワークと足場を駆使しながら樹木の突端にまで
たどり着く。
まれに間違って他人の命綱を切ってしまい、
メンバーが即死したりもするが、
マスターチーフ教官は「埋めてまえ!」と
その都度もみ消しているので世間には公表されないことになっている・・・。
このように天国と地獄を知りつくしたマシラは
地上最強の戦士だ!ふうっ。

ここまで読んで彼らをエリートと呼ぶか
猿とナンチャラは高いところが好き、と思うかは
読者の皆様にお任せする。

この数多くの修羅場をくぐってきたマシラ一族に
古くから伝わる秘術がある。
樹上で活動するマシラにとって、その秘術を復活させることは長年の悲願である。
そのワザさえ完成すれば、足場を組むことなく
木から木へ、枝から枝へ、
さらに穴から穴へと縦横無尽に移動でき
変幻自在にワザを繰り出すことができるからだ。

その名を「ウグイスの谷渡り」というらしい。

ドボク族の古い文献によると、
「それは、行ったり来たりできるトテモ気持ちのいい技だ。」
としか書かれていない。
これでは、取りつく島がないというか、
何のことやらさっぱりわからない。

そこで、ワタクシはドボク鉄道調査課に依頼し、
ウグイスの谷渡りなる秘術に関する情報を集めてもらった。
報告書によると、それはどうやら英国がすでに
秘術に似たようなワザを復活させ、実験を経て最終調整段階に入っているという事だ。

本家本元の我々が出し抜かれるわけにはいかない。
その秘術を英国よりも早く復活させるべく、
マシラ本部より「ミッション・インモラルmission immoral」が発令された!
ワタクシはマシラ一族の特務を負って
急遽、英国に潜入せねばならなくなった。

ミッション・インモラルとは!?そしてワタクシは無事、
特務をまっとうできるのか?
世界をまたにかけるマシラ工作員!
この、いきあたりばったりのドボク族ワールドは、
まだ始まったばかりである・・・。